■基本の相互効果チャートから読み解く「肉に合う酒」の条件
所長J「まずは基本の相互チャートに立ち戻って考えてみようか。そもそも、肉のような旨みの素材を引き立てるにはどうしたらよいかという話なのだが・・・」
助手♂「旨味に向かっては三本の矢印が伸びていますね。」
助手♂「三本のうち『渋味』の矢印だけ太いのは何か意味があるんですか?」
所長J「むむっ・・・それはただの誤植だ。深い意味はない。」
助手♂「(ただの誤植かよ!?)」
所長J「本当は苦味と塩味も太い矢印にしなきゃいけなかったのだが・・・忘れてた。」
助手♂「なるほど。ま、じゃ気が向いたときに直してください(とても本職が社畜コンサルとは思えないドキュメンテーションに対するこだわりのなさ・・・)。ところでこの実線の矢印は・・・ずばり『対比効果(Counter)』ですね。」
所長J「いかにも。『塩味』『苦味』『渋味』には『旨味』を引き立てる効果があるよね。簡単な例を出すと、『肉×岩塩』。味付けのない肉を食べるのは結構苦痛だが、塩を振るだけで、あら不思議!簡単に肉の旨味を引き出される。あれは単に塩味に味付けしているわけじゃなくて、旨味を引き出すために塩を振ってるわけだね。」
助手♂「しかし、そうだとしても・・・しょっぱい日本酒ってないですよね?」
所長J「ないな。酒(アルコール)自体が、酵母が糖分を食べて出来上がるものだから、その原理から言ってもしょっぱい日本酒と言うのはない。」
助手♂「となると、『苦味』や『渋味』のある日本酒を探すということになりますね?」
所長J「そういうことになるな。それは仮説の一つだね。もうひとつのか可能性は前回助手♂が言ってた『旨味』×『旨味』。肉の『旨味』に日本酒の『旨味』を重ねて『相乗効果』を出すやり方。」
助手♂「『旨味』と『旨味』のマリアージュですね」
所長J「ペ・ア・リ・ン・グだ。独身の前でマリアージュとか言うんじゃねーよ、ボケが。」
助手♂「え、そんな理由で『ペアリング』ラボなんですか?」
所長J「あ”?・・・それもあるが、『マリアージュラボ』だと、なんだか結婚相談所みたいだからなぁ・・・まぁそれはともかく、話を戻すと、今言った『旨味×旨味』のペアリングが今回日本酒を選ぶポイントの二つ目かな?」
助手♂「なるほど。『苦味・渋味で肉の旨味を引き立てる』か『旨味を重ねる』ですね。しっかしこの会話の順番だったら、普通は説明資料のペアリング仮説①(緑のボックス)が「塩味・苦味・渋味による対比効果を狙う」で、ペアリング仮説②が「旨味を重ねて相乗効果を狙う」じゃないですか?」
所長J「君は私の上司か、リアルでの?これだからA型は嫌いだよ、やだやだ。こまけぇことはいいんだよ。」
■ペアリング仮説①:肉の旨味に酒の旨味を合わせて『相乗効果』を狙う
所長J「(気を取り直して)まずは、肉の旨味を引き立てる、『旨味あふれる日本酒』というと、これ。」
助手♂「これ、ワインですか?カッコいい瓶ですね!瓶の下部の紋章は?ジオン軍!?」
所長J「言われてみればジオン軍っぽいが、ジオン軍ではないし、ワインでもない。これは日本酒だよ!仙台の勝山酒造さんの『勝山 䴇 SAPPHIRE LABEL』。」
助手♂「『䴇』・・・読めなひ・・・。」
所長J「『かつやま れい さふぁいあ らべる』と読みます」
助手♂「勝山酒造さんですか・・・失礼ながら初めて聞きました。」
所長J「細かい歴史は、ホームページのHistoryを読んでくれ(F-22ラプターなどの酒蔵らしからぬ言葉が飛び交っているが・・・)。伊達家御用蔵として長い伝統を持つ酒造だけど、名前を良く聞くようになったのはここ2年ぐらいだとか?ちなみに、私が耳にしたのは先週だ。」
助手♂「素人感全開ですね・・・」
所長J「だって素人だもの。さてこの勝山『䴇シリーズ』は、コンセプトが『日本酒が苦手とされてきた肉料理と合わせるための新発想の日本酒』なので、肉とのペアリングの候補としてはかなり自信がある。特徴は低く抑えられたアルコール度数とそれでもまったく細くない骨太な『旨味』だね。」
助手♂「普通、日本酒って15-16%ぐらいですから、結構度数低いですね。12%というとだいたい白ワインぐらいですかね?」
所長J「だいたいね。アルコール度数16%だと、やはりアルコールそれ自体が食事とのペアリングで邪魔になったりするからね。それにしても度数12%に抑えつつもきっちり旨味を持たせるのはつくりとしては相当難しいんじゃないかな・・・蔵の努力と技術の賜物だと思う。香りはメロンのような感じで、味はとても甘い。肉と合わせると『生ハムメロン』的なフレーバーの妙味を味わうことが出来る(かもしれない)し、塩辛い肉料理と合わせると甘さもグッと引き立つ(『対比効果』)と思う。とはいえ、楽しみたいのはやはり『旨味』と『旨味』の共演。あまり行儀は良くないと思うけど、肉を頬張って、勝山を口に含み、口内で咀嚼して混ぜてみるとみると、『あ、これが旨味と旨味の相乗効果か!」とうのが分かる、と思う。」
助手♂「なるほどいきなりゴックンしない方が良いってことですね。」
所長J「まぁ今回に限らず、実はペアリングは普通そうするもんだよ。」
助手♂「へぇ・・・」
所長J「食べ物に直接酒をかけるというやり方もあるが・・・まぁ今回はそこまではやらないでもいいか。そのうち冬になってきたらしゃぶしゃぶした肉を日本酒につけてから食べる・・・とかをやってみても良いかもしれない。」
助手♂「ところで、これが(サファイアラベル)『䴇シリーズ』シリーズで一番安い酒なんですか?」
所長J「そうだね。本当はもう少し中堅どころの(例えばルビーとかエメラルド)やつが良かったんだけど、うちの研究所にはそんなに研究費がないからなぁ(ぶつぶつ)。」
■ペアリング仮説②:渋味・苦味・塩味の『対比効果』で肉の旨味を引き立てる
所長J「それから仮説②の渋味・苦味・塩味の『対比効果』狙いの日本酒だが・・・秋鹿 ひやおろし 倉垣村 純米吟醸。」
助手♂「お、ひやおろしですか?」
所長J「ひやおろしだね。やっぱり少しは秋を意識して選んでみた。しかし自分で仮説を立てておいてあれだが、仮説②の酒を選ぶのはかなり難しい。仮説①はすんなり候補が思いついたんだけど。そもそも塩味の日本酒はないし、『渋味は赤ワイン』『苦味はビール』が得意とする味で、日本酒の基本的な味ではないからね。」
助手♂「たしかに」
所長J「困りに困って素直に、『何かないですか?』と酒屋で聞いたら出てきたのがこれ。店でのコメントによると『タンニンっぽい渋みや苦味がある』とか?ぶっちゃけ飲んでないので、現時点で味についてとやかく申し上げることはできないね。」
助手♂「となるとネット上での評価を引用するしかないですが・・・」
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徳島県産の《山田錦》を100%使用。やわらかで控えめな吟醸香、《山田錦》ならではのまろやかな旨みと秋鹿らしいしっかりした酸がみごとに調和した豊醇辛口の味わいが魅力。
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助手♂「分かるような分からないような・・・それはともかく、少なくとも渋いとか苦いとか言う記述はないですね。他のサイトだと次のように書かれています」
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秋鹿さんならではの落ち着いた香りまろやかな口当たり、米の濃醇な旨みとコクがじんわりと広がり張りのある酸、後味は辛口な味わいはまさに秋の旬の味覚にピッタリ。秋の食材とじっくりと味わいたいお酒、お燗も◎
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助手♂「ここにも特にタンニンっぽいニュアンスのコメントはないですね。」
所長J「米はどう転がしてもタンニンを生まないはずなんだけど・・・前回の菊姫以上に味の記憶がないというかそもそも飲んだ経験がないわけだが、最終的な味については、ふたを開けて見てからのお楽しみとしか言いようがないな。」
助手♂「そうですね。では、お酒はこれとして、合わせる肉料理について、次は検討して見ようか。」
[11日目]日本酒ペアリング 第2弾「独眼竜に俺はなる!」 理論編②につづく
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