[18日目]日本酒ペアリング③ 味の濃淡と相互効果 企画編はこちらから
■日本酒ペアリングの全体像
所長J「何かを食べたり飲んだりした時に、『おいしい』と感じるのはどんな時かを考えてみると、実にいろんな要素が複雑に絡み合っているよね。やっぱり気の合う友達とかと食べるご飯と言うのは旨いわけだし、好きではない上司と食べるご飯と言うのはあまりおいしくなかったりする。」
助手♂「緊張しながらご飯を食べると、全然味がしなかったりもしますよね。」
所長J「そういうのもあるね!置かれている状況によってはカレーですら無味無臭になる時がある。そういうような『雰囲気』とか『空気』とのペアリングというのも大事だ。ただしかしまぁこの研究所はそういうペアリングまではカバーしきれないかな。他の人と接する時に、人がどういう感情を抱くかと言うのは、それこそ千差万別であるし・・・。」
助手♂「そりゃそうですね。『上司と飲む獺祭』と『恋人と飲む獺祭』の味とか比べてみても面白いかもしれませんが、きりがないでしょう。」
所長J「しかしそういう食事以外の環境要因を除くと、ある程度人の『味の感じ方』を決める要素と言うのは体系化できるような気がする。もちろんペアリングについても。まぁちょっとこれを見てほしい。」
助手♂「なんですかこれは?」
所長J「これがペアリングの全体像だよ(これをまとめるのに2週間もかかってしまったので、前回の更新から間が開いたわけだが)。」
助手♂「ん?最初は味の相互効果だけだったのですが、なんか増えましたね。しかしこれだけ?たった4つの要素でペアリングの良し悪しが決まるというのですか!?」
所長J「もちろん今日(19日目)まで見てきたように、一番最初の『①味』の部分だけみても、ものすごく複雑な要素が絡まっている。だけど、大きな括りで言えば、基本的にはこの4つと言ってしまって良い・・・と今は考えている。」
助手♂「『①味』の部分をこれまでわれわれは攻略してきたわけですがその先に『②濃淡』と『③風味』と・・・ん?『④食味』があるということですか?うーん、『①味』はこれまでやってきたので分かるんですけど、『①味』と『③風味』と『④食味』はどう違うんですか?」
所長J「待てあわてるな、これは孔明の罠だ。」
助手♂「ん、あ?え?罠?」
所長J「そうだ、罠だ(とりあえず、今後のネタがなくなるから、今日は煙に巻いておこう)。まずは双児宮の『②濃淡』を倒してからじゃないと、先にある巨蟹宮(『③濃淡』)には進めない。巨蟹宮にはデスマスクが居る。」
助手♂「デスマスクってある意味ではブタゴリラ以上にひどいネーミングですよね。」
所長J「『悪魔君』って命名するようなもんだしな。親の気が知れんよ。しかもあいつイタリア人って設定なのにな。イタリア人なのに、『デス』で『マスク』ってどういう設定なんだよ、おい。」
助手♂「・・・それに突っ込みだすと、今日の記事は『聖闘士には同じ技は通用しないはずなのに、なぜミロはスカーレットニードルは15回も撃てるのか?それって技の前提おかしくない?』とかいう内容で埋め尽くされることになるので、それはひとまず置いておくとして、『②濃淡』の話をしましょう。」
所長J「おお、そうだった(よし、流れを戻したぞ)!さて、ペアリングにおける『②濃淡』というのは、一言でいうとカンタン、要は『酒と食べ物の味の濃さを合わせましょう』と言うことなんだ。」
助手♂「味の濃さ・・・ですか?」
所長J「そう。食べ物にも薄味とか濃口とかあるように、日本酒にも味が濃いものや水に近い薄い物がある。味の濃い食べ物に味の薄い日本酒は合わないし、味の薄い食べ物に味の濃い日本酒は合わない。」
助手♂「『②濃淡』ってそれだけのことなんですか?」
所長J「そう、それだけ。でも日本酒にせよ料理にせよ、いろんな要素によって濃淡は左右されるから、ピタリとバランスさせるのは難しい事なんだよ。ちょっと調味料や調理法を変えるだけで食べ物の濃淡はすぐに変わってしまうからね。」
■味の濃淡の構成要素
所長J「まず酒の濃淡の方を考えてみると、例えばビールだと「原材料」でほとんど決まってしまい一部「製法(ドライホッピングするとかローストするとか長期貯蔵するとか)」に左右される。それに対して、日本酒というのは「原材料」のみならず「製法」が左右する部分と言うのが結構大きい。」
助手♂「同じ原材料を使っても、山廃と大吟醸では山廃の方が味が濃いですね。」
所長J「いかにも。あとビールやワインと日本酒が一番違う点は、温度によって濃淡をコントロールする余地があるところだね。」
助手♂「日本酒を熱燗にすると、いろんな香りが立ってきますね・・・むせ返るようなアルコールっぽさもかなり強く出てきますが。ところで最近はワインやビールにもホットワインとかホットビールと言うようなものもあります。あれも温度によって濃淡をつけるためにやっているんでしょうか?」
所長J「あとで詳しく説明するけど、渋味や酸味を特徴とするワインやあるいは苦味を特徴とするビールは、温度を上げたからと言って味が濃くなるということはあまりないんだ。むしろ酒自体の特徴となる味が薄れたりするんだよ。」
助手♂「そうなんですか?だからワインやビールでは酒を温めるというのが習慣として根付かなかったんですかね・・・。」
所長J「逆にワインやビールの場合はしっかり冷やしてサーブするというのが大事になってくるけど、これらの酒は冷やした時の方が酒の特徴が良く出てくるからね。それはさておき、一方で食べ物の方の濃淡だけれども、これは『原材料』と『調理法』と『調味料』でだいたい決まってくる。次のセクションでもう少し突っ込んで考えてみようか。」
■食べ物の「味の濃淡」
助手♂「『原材料』は肉なのか野菜なのか魚なのかと言うようなものですか?例えば肉にしても部位によってもだいぶ味が違いますよね?」
所長J「そうだなぁ・・・鶏でも胸肉はあっさりしているのに対してモモ肉はこってりしていて味が濃い。同じ唐揚げという料理を作っても肉の部位によってだいぶ食べた時の印象は異なるよね。」
助手♂「『原材料』には旬と言う要素もありますよね。鰹とかは夏に取れる初鰹はあっさりしているのに対して、秋の戻り鰹は脂がのっているので味が濃くなります。」
所長J「それをどのような味付けで食べるのか、つまり『調味料』によってもだいぶ印象は異なる。単純に砂糖や塩をたくさん使えば、甘味や塩味が増えるわけなので、濃淡は増える。また同じような『原材料』や『調味料』を使っていても、『調理法』によってもかなり味の感じ方は違ってくる」
助手♂「鰹は刺身でそのまま食べても良いですし、タタキにしても良いですが、タタキすればちょっとした香ばしさがついて、身の余分な水分が減ったぶん味が濃厚になるますよね。」
所長J「その場合、合わせる日本酒の方も少し濃い物を合わせなきゃならん、ここで言いたいのはそういう言うことだ。」
助手♂「しかし『原材料』『調味料』『調理法』の組み合わせなんて千差万別ですよね。スカウターでもあって、食べ物の味の濃淡が数値化されれば簡単ですが・・・。」
所長J「まぁ一概にこれが正解と言うのはないんだけど、数値化と言う意味では『カロリー』は濃淡の目安になるんじゃないかなと思う。」
助手♂「ん?カロリーですか・・・?」
所長J「うん、要はカロリーが高い料理というのは栄養がたくさんあるわけだけど、栄養がたくさんあるということは料理の味としても濃いことが想定されるわけだよ。その逆もまたしかりで、カロリーが低い料理は味も淡いことが想定される。もちろん例外はいくらでもあるけども。」
助手♂「うーん、なんとなくは分かります。なんとなくは。」
所長J「これは適当な仮説だけど、一人前でカロリー200kcalまでぐらいの料理なら純米大吟醸、200~500kcalぐらいまでなら純米吟醸、500kcalを超えるようだと純米酒や本醸造、場合によっては生酛や山廃なんかを合わせた方が良いんじゃないかな?もう一回言うけど、これは適当な数値だからちゃんと検証しないといけないけれどもね。」
■酒の「味の濃淡」
所長J「食べ物の濃淡以上に酒の濃淡と言うのは難しい。さっき『200kcalまでぐらいの料理なら純米大吟醸、200~500kcalぐらいまでなら純米吟醸』とか言ったけど、使ってる米や製法によって同じ純米大吟醸でも味の濃淡はだいぶ違うからね。」
助手♂「最近酒米の雄町がふくよかな味わいで人気になっているようですが、玉川の雄町純米吟醸とかは『純米酒ですかこれ?えっ吟醸なの?』みたいな味がしますし。」
所長J「玉川で言えば、山廃の純米大吟醸とか、とうてい純米大吟醸とは思えないグーパンチな味がしたような気がする。それはともかくとして原材料と製法については、購入して目の前に既に酒が用意されている状況でどうにかできるファクターではないよね。一方で温度は購入した後で飲む人がある程度コントロールできる要素と言うことが出来よう。にもかかわらず、だいたい居酒屋でも家庭でも、酒と言えば冷蔵庫から出されたものをそのまま飲んでいるよね?」
助手♂「ものすごい親切な店で、一度だけ『何度ぐらいでお出ししますか?』と聞かれたことはありますけど・・・『日本酒=冷で飲むもの』というのが飲食店でも定着しちゃってますね。熱燗は中味はなんだか分からないけど『熱燗』というメニューになってますし。」
所長J「まったく、あれ中味はなんなんだろうなぁ?」
助手♂「ものすごく『パック酒』っぽい味がしますけど。」
所長J「だから熱燗に対するイメージが良くないのかもしれないな。けれども、日本酒という酒の味の本質に立ち返れば、それが供される温度についてはもっと敏感になっても良いぐらいだと思うんだわ。まぁちょっとこれを見てみてくれ。」
助手♂「このグラフはなんですか?」
所長J「これは温度別に人間の舌が感じる味の強さをグラフにしたものだよ。」
助手♂「ほほぅ、なるほど。三つ折れ線グラフがありますね。」
所長J「そう。味にはいろんな要素があるけど『①甘味や旨味のグループ(オレンジ)』と『②苦味や渋味や塩味(ブルー)』のグループと『③酸味(水色)』の三種類がある。前に日本酒の味の特徴は『①甘味や旨味』だという話をしたけれども、甘味や旨味はだいたい人肌と同じ35℃ぐらいになった時に最も強くその味を感じることができると言われているんだ。」
助手♂「いわゆる『人肌燗』・・・名前的にはそのままなんですが・・・とか『日向燗』とか『ぬる燗』と言われている温度帯ですね。」
所長J「そうそう。居酒屋だと冷は10℃以下で、熱燗は熱燗と言いつつ55℃ぐらい(実際は『飛切燗』)なので、『人肌燗』『日向燗』『ぬる燗』はいつもはスルーされている温度帯なんだけれども、その温度帯が実は最も甘味や旨味がたかまる温度帯なのね。」
助手♂「そうなんですね、『人肌燗』なんて中途半端な温度で注文したことなんて、これまでありませんでしたよ。」
所長J「一回だけあるけど、そう頼んでも『熱燗』で出てきちゃうんだなこれが、店が悪かったのかもしれないけど。というのが『①甘味・旨味』の特徴。」
■濃淡と濃淡のペアリング
助手♂「つまり、どんな酒でも温度を35℃にすれば一番味が強くなる・・・ということですか?」
所長J「日本酒の主な味が『①甘味・旨味』であれば、だいたいそうだということが出来る。けれども、あながちそうでもないというのを、この間この研究所では体験したんだよ。」
助手♂「そうでしたっけ?」
所長J「そう、あれは忘れもしない、わたしが二度死んだ14日目の話」
[14日目]日本酒ペアリング 第2弾「独眼竜に俺はなる!」 実食編②はこちらから
所長J「あの日、冷蔵庫から出した秋鹿は、ずっと食卓の上に放置しておいただろ?」
助手♂「そうでした。」
所長J「食卓に放置したせいで酒の温度がぬるくなっててしまったので、スペアリブを食べた時と煮込みハンバーグを食べた時では秋鹿の印象がだいぶ違ったと思うんだ。あの時秋鹿を飲んで狙っていた効果は秋鹿の『渋味』や『苦味』で肉の『旨味』を対比効果で引き立てることだったんだけど。実はさっきのグラフに立ち返ると『②苦味や渋味や塩味(ブルー)』と言うのは温度が上がれば上がるほど弱く感じられる味の要素なんだ。」
助手♂「あれ?あの時は煮込みハンバーグの味が濃すぎるので失敗だったという話じゃなかったでしたっけ?」
所長J「それも敗因の一つではあるのだけれど、もしか秋鹿がキンキンに冷えていれば、スペアリブの時とおなじような肉の味の輪郭をくっきりはっきりさせることができてかもしれないんだよ。」
所長J「秋鹿も煮込みハンバーグも全部飲み切っちゃったし食べきっちゃったからいまさら検証のしようはない。けど今回のこの理論を叩き込んだからには、発揮したい相互効果によって、温度を上下させるというテクニックが使えるようになったわけだ。というわけで、前回のリベンジマッチをしてみようという話なのだよ、今回の企画は。」
※ちなみに『③酸味』は温度による味の感じ方の変化がないといわれているので、冷でも熱燗でも感じ方は同じです。ただし酒の中の他の要素(甘味・旨味・塩味・渋味・苦味)の感じ方がかわるのでそれに影響されて強く酸を感じたり、弱く感じたりすることがあります